今年の5月13日、ファチマの聖母の記念日に、質素な生活ぶりから「世界で一番貧しい大統領」とも呼ばれてきた南米ウルグアイのホセ・ムヒカ元大統領が、亡くなりました。89歳でした。ムヒカさんは1935年に貧しい家庭に生まれ、貧困や格差に矛盾を感じて20代のころから反政府ゲリラ組織に参加し、軍事政権の下で10年以上刑務所に収監されました。ウルグアイが民主化した後、1990年代から左派の国会議員として活動し、2010年から5年間、大統領を務めました。大統領在任中も農場での生活を続け、そのつつましい生活ぶりから“世界一貧しい大統領”とも呼ばれ国民から親しまれてきたほか、大量消費社会を鋭く批判したスピーチは各国で翻訳され、日本でも人気を集めました。わたしも「世界でいちばん貧しい大統領のスピーチ」という本を買いました。2012年ブラジルのリオデジャネイロで国連持続可能な開発会議でスピーチを行ったムヒカ大統領は「私たちは本当に仲間なのですか?」先進国の大量消費社会を厳しく批判するメッセージを、強く、優しく語りかけました。彼の言葉に、世界は私たちの生き方は正しいのだろうか?と衝撃を受けました。彼は、古代の賢人は「貧乏とは、少ししか持っていないことではなく、かぎりなく多くを必要とし、もっともっと欲しがることである」と言いました。彼は、人より豊かになるために、情け容赦のない競争をくりひろげる世界にいながら、「心をひとつにみんないっしょに」などという話しができるでしょうか。だれもが持っているはずの、家族や友人や他人を思いやる気持ちは、どこにいってしまったのでしょうか。知らなくてはなりません。水不足や環境の悪化が、いまある危機の原因ではないのです。ほんとうの原因は、わたしたちがめざしてきた幸せの中身にあるのです。見直さなくてはならないのは、わたしたち自身の生き方なのです。会議でのスピーチの最後はこんな言葉でした。「社会が発展することが、幸福を損なうものであってはなりません。発展とは、人間の幸せの味方でなくてはならないのです。人と人とが幸せな関係を結ぶこと、子どもを育てること、友人を持つこと、地球上に愛があることーーーこうしたものは、人間が生きるためにぎりぎり必要な土台です。発展は、これらをつくることの味方でなくてはならない。なぜなら、幸せこそがもっとも大切な宝だからです。人類が幸福であってこそ、よりよい生活ができるのです。わたしたちがよりよい生活をするためにたたかうとき、これを覚えておかなくてはなりません」。
国連のスピーチから4年後、ムヒカ大統領は日本に来て、はじめに広島の原爆ドームに行きました。彼は日本では、「人間は同じ石に何度もつまずく唯一の動物だ」と話し、「人生で一番大事なことは、成功することじゃない、歩むことだ」との言葉も残しています。前のフランシスコ教皇はアルゼンチン人で今度のレオ14世教皇も南米と関わりのある人です。南米のウルグアイで、報酬の大部分を貧しい人に寄付し月に1000ドル足らずで心豊かな暮らしを実践してきたムヒカ元大統領は、金持ちで威張っていて、近ごろ鼻につく大統領より、人間の幸せがどこから来るのかを分かっていたずっと立派な人物に思えます。
ホセ・ムヒカ(著)
「世界でいちばん貧しい大統領のスピーチ」
くさばよしみ(編) 中川学(絵)汐文社
投稿者プロフィール

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ヴァレンチノ山本孝司祭
フランシスコ会 日本管区『小さき兄弟会』 旭川地区協力司祭
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